札幌高等裁判所 昭和36年(ネ)134号 判決 1963年7月12日
控訴人 難波太郎
訴訟代理人 村部芳太郎
被控訴人 水野両平
訴訟代理人 小谷勝市 復代理人 山根喬
主文
原判決を左のとおり変更する。
釧路地方裁判所昭和三二年(ケ)第三三号不動産競売事件につき、同裁判所の作成した配当表(支払表)中、被控訴人への配当額を金一七九万八八七五円と変更する。
控訴人のその余の請求を棄却する。
訴訟費用は、これを二分し、その一を控訴人の、その余を被控訴人の負担とする。
事実
控訴訴訟代理人は、「釧路地方裁判所昭和三二年(ケ)第三三号不動産競売事件につき、同裁判所の作成した配当表中、被控訴人への配当額を金一三八万三七五〇円と変更する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、
請求の原因として、
一、釧路地方裁判所は、同庁昭和三二年(ケ)第三三号不動産競売事件につき、昭和三四年一二月二二日の配当期日に、債権者たる被控訴人に対し元金一五〇万円、利息金四五万円合計金一九五万円を配当する旨の配当表を作成したところ、債務者たる控訴人は右期日において被控訴人の債権につき異議を申し立て、右異議は右期日に完結しなかつた。
二、被控訴人の債権として、釧路地方法務局昭和三二年四月一一日受付第二〇四八号をもつて債権額一五〇万円、利息月一分二厘五毛に対し抵当権設定登記がなされているが、実際は、控訴人は、同年四月中旬頃、被控訴人の代理人訴外田中長三郎から、利息一ケ月五分の割合によつて弁済期までの利息二ケ月分一五万円を天引された後、金一三五万円の交付を受けたのみである。これを利息制限法第二条の規定により計算すると、控訴人の被控訴人に対する債務元本額は、金一三八万三七五〇円となる。
三、また、被控訴人は、昭和三四年春頃、控訴人に対し、その利息債務を免除した。
四、よつて、被控訴人に対する配当額は、金一三八万三七五〇円と変更されんことを求める。
と述べ、立証として、甲第一号証、第二号証、第三、四号証の各一、二を提出し、当審証人野呂力蔵の証言、当審における控訴人本人訊問の結果を援用し、乙号各証の成立を認めた。
被控訴訴訟代理人は、控訴棄却の判決を求め、請求原因に対する答弁として、「請求原因事実中、登記の内容は争わないが、利息天引の点、利息免除の点は否認する。被控訴人は、控訴人の代理人訴外田中長三郎に対し、昭和三二年四月一三日、貸付金一五〇万円を貸し渡し、その翌日二ケ月分の利息を受領したものである。」と述べ、立証として、乙第一ないし第四号証を提出し、原審および当審証人田中長三郎の証言、当審における被控訴人本人訊問の結果を援用し、甲第一、二号証の成立を認め、その他の甲号各証の成立は不知と述べた。
理由
一、まず、本訴の適法性について考慮する。
成立に争いない甲第一、二号証によれば、本件配当異議訴訟の提起される基本となつた釧路地方裁判所昭和三二年(ケ)第三三号不動産競売手続(以下原手続という。)において、昭和三四年一二月二二日午前一〇時支払期日が開かれ、支払表が作成されたが、その際債務者である控訴人が申立債権者である被控訴人の申立債権額に対して異議を申し立て、右期日にその異議の完結しなかつたことが認められる。ところで競売法による競売については、同法に特別の規定がない場合その性質の許す限り、民訴法の規定を準用すべきものであるところ、右のように、競売法による不動産競売手続において強制執行手続における配当期日に相当する支払期日が開かれ、配当表に相当する支払表が作成された場合には、民訴法第六九八条の準用により、期日に出頭した債務者は、各抵当権者の主張する債権額に対し異議を申し立てることができるものと解すべきであり、従つて、期日にその異議が完結しない場合、債務者がある抵当権者に配当せられるべき金額を主張して訴を起せば、その訴は、実質上、債務者からその抵当権者に対する一部債務不存在確認請求の訴の性質を有するものであるが、前記法条の準用による配当異議の訴としてこれを適法と解すべきである。けだし売得金配当の段階において債務者にこのような異議の訴を認めることは、何ら競売法の精神に反しないのみならず、同法第三三条第二項が、競売代金の交付は「之ヲ受取ルヘキ者」になさるべきことを規定している以上、右の段階において「受取ルヘキ者」の権利を確定するための訴訟がなされることは、むしろ適切であるとすべきであるからである。ちなみに、原手続の競売物件には、本件債権者(被控訴人)の抵当権の外にもいくつかの抵当権が設定せられているため、本件訴訟における控訴人の請求が認容され、本件異議にかかる被控訴人の債権従つて配当額が控訴人の主張どおり減縮されたとしても、別段競売代金に配当残額を生じて債務者(控訴人)に渡るべき関係にはないこと前記甲二号証(支払表)に示された売却代金額と各抵当権者の債権額とを比照して明らかなところであるが、およそ競売債務者は、競売代金が、「之ヲ受取ルヘキ者」に正当に交付せられるか否かについて常に利害を有するものと解すべきであるから、本件で債務者たる控訴人に右のような事情があるからといつて、本件の訴の利益を否定すべきではない。また、本件請求原因事実である利息天引の点と利息免除の点との両者のうち、前記支払期日において陳述せられたのは後者のみであつたことが、前記甲第一号証(支払期日調書)の記載から窺えるけれども、前示のような本件の訴の特殊の性格に鑑み、期日において異議の理由として主張せられなかつた利息天引の事実をも、本件異議の訴の請求原因事実として主張しうるものと解すべきである。従つて、本件の訴は適法である。
二、そこで、進んで本案の当否につき判断する。
(1) 当審における控訴人本人訊問の結果によつて成立を認めうる甲第三、四号証の各一、二、当審証人野呂力蔵の証言および当審における控訴人本人訊問の結果ならびに証人田中長三郎の証言(原審および当審)の一部を綜合すると、次の事実を認定しうる。
昭和三二年三月頃、控訴人は友人である訴外野呂力蔵に事業資金の金融斡旋方を依頼し、同人から訴外田中長三郎を紹介され、同訴外人の仲介によつて同年四月一〇日頃、被控訴人から金一五〇万円を借り受けることとなつたが、当初の野呂や田中からの話では、利息は月五分、期間二ケ月、担保として控訴人所有の土地建物(これが原手続の競売物件である。)につき抵当権を設定すること、という条件であり、控訴人はこれを承諾した。
ところが、同月一一日、田中長三郎は、被控訴人からの融資金一五〇万円のうち、金八〇万円から金一五〇万円に対する三ケ月分の利息を差し引いた金五七万五〇〇〇円を額面とする小切手を持参して、控訴人不在中、その家人に交付し、更にその翌日、残金七〇万円から同人自身の取り分として手数料九万円を差し引いた現金六一万円を持参交付した。
その後、被控訴人は、野呂力蔵の口ききから、控訴人に対し、先に天引した利息のうち一ケ月分にあたる金七万五〇〇〇円を返還したが、同年六月中旬、期限が来ても元金を返還できなかつた控訴人は金七万五〇〇〇円を利息として被控訴人に支払つて、一ケ月の延期を得た。同年七月、田中長三郎は、先の手数料金九万円のうち金一万五〇〇〇円を控訴人に返還した。
このように認めることができる。右各証拠中には、右認定事実と齟齬する部分もあるが(なかんずく、期間の点について区々である。)、その部分は採用しない。成立に争いない乙第一号証には、現金一五〇万円を控訴人が受領したかのごとき記載があり、証人田中長三郎(原審および当審)ならびに被控訴人本人の供述にもかかる趣旨の部分があるけれども、右各供述は必ずしも措信できないし、右乙号証の記載も、その成立の由来に関する控訴人本人の供述に照らし、前記認定を妨げるものではない。その他この認定に反する証拠はない。
(2) 右認定事実に基いて考えると、少なくとも利息制限法第二条の適用上は、控訴人の受領した消費貸借金は、金一五〇万円から利息二ケ月分金一五万円を天引した金一三五万円であつたと認めるのが相当である。けだし、田中長三郎の取得した金員は――同人がどちらの代理人であつたにせよ――同人の取得すべき仲介手数料であつて、利息天引と見るべきでなく、一方、連続する二日間にわたつて分割して貸し渡されたこと、また小切手と現金とに分けて交付がなされたことは、本件の事実関係のもとでは、いわゆる消費貸借の要物性を論ずる上において一度に現金で貸し渡された場合と同視して差支えがないし、また一旦三ケ月分の利息が天引されたとしても、その後そのうち一ケ月分は無条件で債務者に渡されているのであるから、利息天引のなされた場合における債務者の保護を眼目とする利息制限法第二条の法意に鑑み、二ケ月分の利息天引がなされた場合以上に債務者を保護する必要はないと考えられるからである。
(3) そこで、金一三五万円の交付に立脚して同条を適用すると、右を元本とし、同法第一条第一項による年一割五分の利息の二ケ月分金三万三七五〇円を天引利息金一五万円から差し引いた残金一一万六二五〇円は元本の支払に充てたものとみなされるので、控訴人の被控訴人に対する債務元本額は、金一三八万三七五〇円となる。
(4) 次に、利息免除の争点について案ずるに、控訴人主張のような免除の事実を認めるに足る証拠はない。しかしながら、本件約定利率月五分は利息制限法に違反するから、これを同法制限下に引き直して、年一割五分すなわち月一分二厘五毛として、利息、損害金を計算すべく、この数字はあたかも当事者間に争ない本件抵当権付債権の登記利率に合致する。なお、控訴人は前記認定のように金七万五〇〇〇円を任意に利息として支払つて一ケ月の延期を得ているので、損害金は、昭和三二年四月一一日から三ケ月経過後の同年七月一一日以降について算出すべきである。
三、結局被控訴人に対する配当額は、元本金一三八万三七五〇円およびこれに対する昭和三二年七月一一日以降年一割五分の割合による損害金のうち最後の二年分金四一万五一二五円の合計金一七九万八八七五円となる。控訴人の請求は、被控訴人への元利合計金一九五万円の配当額を右金額に変更することを求める限度では正当であるから、これを認容すべく、その余は失当であるから、これを棄却すべく、右と異なる原判決は民訴法第三八六条によりこれを変更し、訴訟費用の負担については同法第九二条、第九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 川井立夫 裁判官 臼居直道 裁判官 倉田卓次)